西村兄妹キモノ店

日々のお話

 

西村兄妹の交遊録⑥_澤井久晃さん

2019.09.14

 

西村家が台所から欠かすことのない澤井さんところのお醤油。

幼い頃から慣れ親しんだお味は、懐かしさというよりも

当たり前の日常を届けてくれます。

当店から徒歩1分。

御所西のシンボルにもなっている町家には

木の良さをしみじみと感じる風情があります。

店先まで漂う香りに、思わず深く息を吸い込みながら

「澤井醤油 本店」5代目を訪ねました。

 

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前職に後ろ髪を引かれながら、34歳にして家業を継ぐため

醤油づくりの場に身を投じた澤井さん。

ちょうど町家ブームが始まった頃だったといいます。

「町家を特集した雑誌にうちが載ってないのが寂しくて……

父親も健在で、継ぐ気持ちもなかったんですが

町家がもったいないと思えてきたんです」。

前の職場で流通に興味を持ち、

「家が食品を扱っていたからというのもあったと思います。

リサイクルやリユースの大切さも学びましたね」。

 

奇しくも、私がキモノに携わるようになって20年。

この20年を振り返ってどうですか?とお聞きすると、

「20年経ったのか……実感は全くないですね。

10年ひと昔って言いますけど、それならふた昔。

でもまだひと昔くらいの感じ。

それだけ必死やったんかなぁ」とのこと。

同じような時間の感覚に、親近感を抱きました。

 

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醤油業界は長らく大手企業が中心だったものの

昨今の地物への注目や、顔の見える手づくりに対する興味関心から

少しずつ売れ行きが安定し、

近年では海外への流出や外国人ニーズが増えてきたそう。

 

「地道な商売なので、今後やっていけるかな

という不安もありましたね。

儲かる商売ではないけど、京都を知る入口になりましたし、

伝統や文化と触れる機会も増えて

守っていくものの大変さと素晴らしさを感じています」

過去には、北野をどりや祇園祭などに出店し、

華やかな世界の裏側や奥深さを知ったというお話に

いろんな触れ方がある京都の懐の深さに、改めて感じ入りました。

 

10年後、20年後を見据えて

「どういうふうに進むのがいいやろう?と考えますね。

もう1軒構えて、アンテナショップにしてもいいかな、とか。

京都人なのでのんびりしてますけどね(笑)」

 

そう仰いながらも、麹菌を殺さないよう心を配りながら

思い切って蔵を改修されるなど、その歩みは力強いもの。

「ボロボロをボロくらいに直しただけですよ(笑)」

その笑顔に、建物への愛を見た気がしました。

 

京都を訪れる際は、ぜひ澤井さんのお醤油を

一度お試しになってみてください。

口伝で受け継がれてきた“ここにしかない味”を

じっくりと味わっていただけると思います。

 

ヒロカズ

 

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