西村家が台所から欠かすことのない澤井さんところのお醤油。
幼い頃から慣れ親しんだお味は、懐かしさというよりも
当たり前の日常を届けてくれます。
当店から徒歩1分。
御所西のシンボルにもなっている町家には
木の良さをしみじみと感じる風情があります。
店先まで漂う香りに、思わず深く息を吸い込みながら
「澤井醤油 本店」5代目を訪ねました。
前職に後ろ髪を引かれながら、34歳にして家業を継ぐため
醤油づくりの場に身を投じた澤井さん。
ちょうど町家ブームが始まった頃だったといいます。
「町家を特集した雑誌にうちが載ってないのが寂しくて……
父親も健在で、継ぐ気持ちもなかったんですが
町家がもったいないと思えてきたんです」。
前の職場で流通に興味を持ち、
「家が食品を扱っていたからというのもあったと思います。
リサイクルやリユースの大切さも学びましたね」。
奇しくも、私がキモノに携わるようになって20年。
この20年を振り返ってどうですか?とお聞きすると、
「20年経ったのか……実感は全くないですね。
10年ひと昔って言いますけど、それならふた昔。
でもまだひと昔くらいの感じ。
それだけ必死やったんかなぁ」とのこと。
同じような時間の感覚に、親近感を抱きました。
醤油業界は長らく大手企業が中心だったものの
昨今の地物への注目や、顔の見える手づくりに対する興味関心から
少しずつ売れ行きが安定し、
近年では海外への流出や外国人ニーズが増えてきたそう。
「地道な商売なので、今後やっていけるかな
という不安もありましたね。
儲かる商売ではないけど、京都を知る入口になりましたし、
伝統や文化と触れる機会も増えて
守っていくものの大変さと素晴らしさを感じています」
過去には、北野をどりや祇園祭などに出店し、
華やかな世界の裏側や奥深さを知ったというお話に
いろんな触れ方がある京都の懐の深さに、改めて感じ入りました。
10年後、20年後を見据えて
「どういうふうに進むのがいいやろう?と考えますね。
もう1軒構えて、アンテナショップにしてもいいかな、とか。
京都人なのでのんびりしてますけどね(笑)」
そう仰いながらも、麹菌を殺さないよう心を配りながら
思い切って蔵を改修されるなど、その歩みは力強いもの。
「ボロボロをボロくらいに直しただけですよ(笑)」
その笑顔に、建物への愛を見た気がしました。
京都を訪れる際は、ぜひ澤井さんのお醤油を
一度お試しになってみてください。
口伝で受け継がれてきた“ここにしかない味”を
じっくりと味わっていただけると思います。
ヒロカズ